
雑誌や広告などで活躍中のフォトグラファー野川さんのライフワークは「山」を撮ること。
しょっちゅうあちらこちらに登ってはそこで出会ったものをフレームに収める。
そんな彼女の、山との出会いがもたらしたこと。

もともと、極度の人見知りだったという。
初対面の人と出会っても、何を話せばいいか分からず、人とコミュニケーションをとるのが苦手だった。そんな野川さんが「開くようになった」最初のきっかけは、写真。「感覚だけど合ってると思っちゃった。撮ってるときも現像も、プリントも、どれも全部楽しかったんです」。やがてカメラマンになることを決意し、大学を出てフォトグラファーのアシスタントをしながら、作品を撮る日々が続いた。「自分の周りの世界だけだと、行き詰まる気がしていて。何を撮ると決めた方がむしろ幅が広がるし、継続的にもやっていけると思ったんです」。
また、自分の内面と繋がれる感じがするもの。それが、山だった。
山に行くと、ふしぎな暗黙のルールがある。他人とでもすれ違えば挨拶するし、時には手を差しのべることもある。「ルートが長いとか、あまり人が入ってないとか、水がどこにあるとか、そんな情報交換をして確認するという意味もあると思います。だけどそうしていくうちに、だんだんと、本当にオープンになっていくのが分かるんです」。大自然という環境だからこそ、なのか。街ではできない、お互いに助け合うことが自然にできていくのだという。「山に行くと、完全に心が開く。一度一緒に行った人とは、急に距離がぐっと近くなるんです。人が全部出ちゃうからかな」。

(写真左)よくよく目を凝らすと、木々の間に鹿の姿が!「鹿って好奇心が旺盛だから、撮ってるとこっちを見るんです」。それらの作品を集めた写真集『山と鹿』をユトレヒト(www.utrecht.jp)より出版。
最近、友だちみんなで「女子キャンプ隊」なるものを結成した野川さん。「すごい楽しいですよ。1女子だけでガンガン火も起こすし、寝るのはソロテントですから(笑)」アウトドア慣れしてきて、最近はかなり本格的だという。
「頂上に行かなくても、山の中にいればいいやって思うほう」という野川さん。以来、すっかり病みつきになり、山を被写体に写真作品を撮り続けて、今は写真や山の存在が、自分をリラックスさせながらオープンになる大きな手段にもなっている。「でもせっかく開いてるのに、山だけだともったいない。山に行って得たものを、下界に降りても活かして、バランスを取って生活できたらなと思う。自然の中にいると、いろんなものがないから、いろんなものを感じる。いろんなものを新鮮に感じるし。感覚が鋭くなるから、帰ってくると街にいても楽しくなっちゃうんです」。普段だと見過ごしてしまうようなことに、目がいくようなこともあるという。「水が出たり、電気が点くとか、そんな当たり前のことに感激したり。いろんなことに対して、感じることが増えるから面白いですよね。以前は興味がなかったかもしれなかったことも、今は好奇心を持つようになったし、それから初対面の人とも緊張せず、接するのもラクになって。仕事もリラックスして臨めるようになりました」。
そして同時に「自分から何かを発信する活動」も積極的にやるようになった。「以前から何か発信はしたいと思ってたんです。写真を始めたのも、それが出発点だったから」。そして現在、写真集を出したり、写真展を開催したりと、積極的な活動をしている。でも被写体は変わらず。「ずっとこれからも山でやってやろうって決めちゃったんです。山はまだまだやれるし、表現できる無限の可能性も感じるから」。

山を撮り始めたころは、作品をわら半紙にプリンターで少部数のみ印刷し、配ったり、売ったり。中には和綴じで製本されているものもあり、凝った造り。

最近、撮り始めたばかりのシリーズ「山でみつけたもの」。松や杉など、いろんな“ぼっくり”をモノクロで撮影。こうして改めてみると、花のようで美しく新鮮!

野川かさね(のがわ・かさね)
1977年生まれ。2000年国際基督教大学卒業。2005年日本大学大学院芸術学研究科修了(修士号取得)。Artist in residence, CESTA(チェコ、Tabor)滞在。写真集『山と鹿』、写真展「山と鹿」(2008年)、写真展「Rainbow Mountain」(2009年)、グループ展「マンデー・マウンテン」(2005年)、「From TOKYO」展(2007年)などに参加。