
本は本屋さんで出会う、だけではなく。
もっといろんな新しい場所や機会があっていい。
業界の革命児「NUMABOOKS」の内沼晋太郎さんが本にまつわる世界を、アイデアで面白くする。

「僕が大学生のとき、映画や美術やいろんなカルチャーに触れる中で、仕事として興味を持ったのは雑誌だったんです」。
という内沼さん。そこで出版社などに、流通や取り次ぎについて聞いたところ、あることが分かった。「それまで出版業界っていうのは不況知らずだったのに、近ごろは本が売れなくなり、みんなが本を読まなくなっている、と言われて。僕は本がすごく好きだったのに、なくなっていこうとしてるのが嫌だし、困ると思いました。それで、作る側でも売る側でもない立場で仕事をしようと。しないと変わらない、自分でやらなくちゃいけない!と思ったんです」
そうして始めた内沼さんの「偶然」をテーマにした活動は、とてもユニーク。
「たとえば、本が面白いと思えない人に対して、最初の出会いをどうしていくか」を考え、立ち上げた「ブックピックオーケストラ」のテーマは、まさに「偶然の出会い」。手がけた「エンカウンター」は、予約制で会員制、入場料を取る本屋。紙袋に入って本棚に並んでいる本を、中身は見えないけど手に取って、紙袋を空けてもらう。そうして出てきた本が、自分の偶然出会った本。めくってみて欲しければ購入できるし、いらない場合もそのまま棚に戻さず、パラパラッと見て気になった一説を引用し、次にその本を手に取る人へのメッセージを残して、棚に戻してもらう、という仕組みになっている。「そうすると棚には、袋に入った本と出ている本が並んでいるんですけど、袋から出ている本は、必ず前に訪れた人のメッセージが残っているというわけなんです」。

クリエイターのオフィスのような店内。アート作品やデザインプロダクツとともに、人格を感じさせるブックセレクトを行っている。
現在は、本屋さんや、本を作る人の相談に乗ったり、洋服屋さんや雑貨屋さんに置かれる本を選ぶ“ブックコーディネイト”の仕事が中心という。「並べるときに意識しているのは、ファッションやカルチャーは好きで、接点はある人はたくさんいるはずだから、そういうもののちょっと横に本を置いてあることで、手に取るきっかけをまず作ろうと。まわりの服や雑貨と関連するような内容の本をセレクトしておくことによって、興味のきっかけを作ることができるんじゃないかって」。
そうして本に出会ってから。次に向かってほしいと内沼さんが願うのは、習慣にすること。「たとえば携帯電話の習慣性は、すぐ身についてしまう。友だちと繋がれる、何かあれば検索する。即効性が強いから、習慣化しやすい。いわば、ファストフードみたいなもんだと思うんですよ。でも、食べることが好きな人ほど、自分で料理したり、素材や調味料にこだわったり。どんどん時間をかけるようになってきますよね。そういうのと本は、どこか近い気がします」。確かに、本から自分の求めている答えを探すのは大変だけど、時間をかけて一度得たものは、深みをもってじわじわと心を満たしていく。
さらにその習慣が、新しい世代へとつながっていくことも、忘れてはいけないこと。「本を読む子に育てたいと思うなら、大人が本を面白そうに読むに尽きる。だいたい、大人が楽しそうに本を読んでいて、子どもはだめだよと言われたほうが、むしろくそーっみたいな(笑)。読みたい気持ちになると思う」。

撮影場所は、内沼さんがブックコーディネイトを担当する、「東京」から生み出されるアート、デザイン、カルチャーを世界に向けて発信する「ビームス」の新プロジェクト“TOKYO CULTUART by BEAMS”の店内。

内沼晋太郎 (うちぬま・しんたろう)
1980年生まれ。本とアイデアのレーベル「NUMABOOKS」代表。一橋大学商学部卒(マーケティング/ブランド論)。本に関わることを中心に、さまざまな分野で企画、プロデュース、ウェブディレクション、文筆、編集等の仕事に携わる。ブックコーディネイトを手がけたのは原宿「TOKYOHIPSTERS CLUB」など。初めての単著『ぼくが本について考えたこと/あたらしい仕事のつくりかた(仮)』(朝日新聞出版)が、2009年3月19日に発売予定。