CONTENTS people#26 十色屋 atelier 10 colours

色も人もそれぞれイロイロだから面白い。

蕎麦屋さんは蕎麦畑を思わせる黄緑から山吹、パン屋さんはカレーパンのような生成りに焦げ茶模様。 「のれん」の色で、空間をうんと素敵に演出する染色家さんのアトリエをのぞいてきました。

「キタナイ色なんて、ないんですよ」

なんだかとっても大事なことじゃない? と思えるような言葉を、その人は、こともなげに言った。

日本の屋根、アルプス連峰のお膝元、長野県安曇野で染めものをしている「十色屋(といろや)」の主人、菊地 均さん。染めに携わるようになって23年になるという。

塗料や色見本

もとは、広告やデザインの場にいた。染めの世界に入ったのは、とある店先を飾る「のれん」がきっかけだった。

「当時の『のれん』といえば、藍染めで和風というのが常套だった。フレンチやイタリアンの店を彩るような『のれん』がないか、とお客さんに言われて探したんだけど、なくて。ないなら自分で作ろうって」と振り返る。これが菊地さんの第一歩。以来、「のれん」に魅せられ続けている。

空間を仕切る、境界線となる「のれん」。でも完全に分断するのではなく、風が通り抜ける、透けて見える。この曖昧なるものに色を乗せる。

菊地さんは、基本となる染料を量って色を作る。ドイツのメーカーの染料には番号がついているため「●●番 —●g」という具合に、さまざまな染料を、それぞれの分量を用いてかけ合わせる。それを記録した数冊の大学ノート(企業秘密とでも言おうか?)。「これを見たら、同じ色は作れます。だから何度でも作れるんですね」。けれどかけ合わせ次第で、幾通りもの色になる。その種類は、星と星との距離を計る尺、光年ほど無限にある。だからこそ色を生み出す作業は、真剣であり、試行錯誤をくり返す。でもときには、偶然に新しい色と出合うこともある。

大学ノートに書き留められた色見本 菊地さんが「色を作る」作業は、染料を混ぜていくことから始まる。天秤でグラムを精密に量りながら、見極める。そしてのれんの布と同じ麻布に、試しに色を乗せる。決まったら色番号をつけて、染料の番号と重さを記す。そうして大学ノートに書き留められた色見本は、数千にもおよぶ。色に遊び、遊ばれている時間。

そう、色は同じものは一つとしてなく、ただそこに「在る」もの。そこに優劣や勝ち負けなんてない。菊地さんは、キライな色はないと言う。「でもニガテな色はありますよ、あくまでも使うのがニガテという意味で」と前置きをして、実は赤なんですと教えてくれた。色は、限りなく等しい。その等しさゆえに、色同士溶け合って、また新たな色を生む。だからどんな色を混ぜ合わせたとしても、キタナイ色にはならない。そしてそれらを配し、とりどりに組み合わせていきながら「空間を彩る」という、ひとつの目的に向かって進んでいく。

「僕が注文で作る『のれん』は、空間を演出するもの。だからお客さんが求めているものが何なのか、どんな場所にどんな目的で『のれん』をかけるのかをきちんと知って、その目的に応じて配色していくわけです。だから色を作ることは、過程。配色がどう空間を彩るのか、どちらかというと、それを大切にしていますね」

菊地さんとみゆきさん 「一緒におるけど、やってることは別々。作業中はお互い、話もせぇへんし」とみゆきさん。菊地さんも「むこう(みゆきさんのこと)がやっていることは、お任せだから」。とは言うものの仲睦まじいお二人でした。

工房と住居のほかに、「十色屋」のショップを経営。担当するのは奥さんのみゆきさん。みゆきさん自作のブックカバーやバッグ、ポーチ、コースターなどを販売している。グッズ制作の発端は、菊地さんが作るのれんの端切れや色見本の麻布を使ったことから。そのため一点ものが多く、カラフルなものがそろう。

十色屋 (といろや)

十色屋 (といろや) atelier 10 colours

菊地均さん、みゆきさん夫婦が営む信州・安曇野にある染織工房&ショップ。均さんがのれんやパネルなどの染色をし、みゆきさんがバッグなど小物制作を担当。

長野県安曇野市穂高有明2186-112

TEL:0263-83-2289  http://www.toiroya.com/

ページのトップへ