
佐賀の街なかに位置する、誰も見たことのないような映画館。客席にユーズドのソファがあり、
雑貨や本があり、寛げるカフェがある。
映画を観るという以上の開かれた「場」を作り切り盛りする、若い3人に共通するのは、母親からもらった、ある贈りものでした。
オトナの佐賀っ子ならきっと誰もが知っているだろう。神社の脇っちょにある街の映画館。あまたの人へ星の数ほどの感動を与え続けたここが、近ごろ地方都市が抱えるドーナツ化現象や、シネコンの出現によって衰退の一途をたどり、閉館を余儀なくされた。このままだと人々の記憶から忘れ去られる! すんでのところで復活に向け奔走した人たちがいた。
発起人は、学生の頃、界隈の映画館でアルバイトをしていた大歯雄司さん。「もっといろんな映画を地元で観れたら、という思いが単純にあって」。そこで映画好きの有志を集め「街なかキネマさが」を結成。上映会を繰り返すうち、出会ったのが「69'ners FILM」の芳賀英行さん。福岡を拠点にカフェなどで「出前映画上映」の活動をしていた芳賀さんを始め、若い3人が中心となって1年前、常設の映画館「CIEMA」として、見事リスタートを遂げることとなった。
各地での上映活動を続けながら、CIEMA代表を兼任する芳賀英行さん(写真中)、建築事務所や本屋という経歴を経て、今や機械も自ら修理する映写担当の江口啓太郎さん(右)、そして東京の映画館スタッフから本館の支配人となった重松恵梨子さん(上)。3人を中心とする運営スタッフはみな若い同世代。
3つあるスクリーンのうち、ひとつを思い切ってカフェと雑貨や本などを販売する空間に変えた。めざしたのは「映画を観なくても訪れたくなる、公民館のような場所」。その思いはどこから来たのだろう。スタッフそれぞれに、映画と触れた原点を聞いてみた。
「小さい頃、母親が姉と僕を連れてよく映画を観に行ってました」とは、芳賀さん。「映画館に行くことは、百貨店の屋上に行くのと同じくらいのワクワク感がありました。中でも“アニー”が記憶に残っていて、今でもトゥモロ~、トゥモロ~、アイラブヤ?、トゥモロ~と頭の中で音と映像が浮かんで来るんです」。

映写担当の江口さんは、福岡県郊外にある早良という町の出身。「母親の親戚が映画館をやっていて理解があったのか、小学生ぐらいの時に普通に『お金ちょうだい』って言ってもくれなかったのが『映画観に行く』って言ったらくれる人だったんです。ただ天神(福岡一の中心地)まで遠出することはできなかったから、友だちと自転車で30分かけて、地元の西新の映画館によく行ってましたね」。
支配人の重松さんもまた、アクションからホラーまで(!)どんな映画でも観に連れていってくれる母親だったという。「中でも印象に残っているのが“ドラえもん”の映画を観た時。内容自体は全然覚えてないんですけど、帰りの気分をめちゃくちゃ覚えてて。どこか足が浮いているような、観後の余韻というものを、その時初めて味わったんです」。
3人に共通するのは、映画そのものよりも、映画館という「場」で映画を観る喜び。それぞれの母親たちが、子どもへの想いを込めたであろう「体験」というギフトが、記憶の片隅に残っていて、今に繋がっているということ。芳賀さんは言う。

「僕は映画マニアではないけれど、だからこそ間口を広くできるんじゃないかって、今では思うようになりました」。
チェコアニメなどの上映や「読み聞かせ」などのイベントも積極的に行い、親子連れなども増えてきているという。「今、シエマで映画を観た子どもたちの中にも、僕たちと同じように『あの時の体験が~』と将来、思い返す日が来ればいいなぁと思いますね」。


CIEMA (しえま)
映画を観るだけでなく、雑貨や本が買えたり、お茶や食事ができたり、イベントに参加したり。新しい形の開かれた映画館。CIEMA=CIERO(スペイン語で“空”)+CINEMA(シネマ)が名前の由来。昔懐かしい作品や、海外の作品、話題の日本映画など、たくさんの優れた作品を上映している。
佐賀県佐賀市松原2-14-16 セントラルプラザ3F
TEL0952-27-5116 http://ciema.info/