
「書き初め」という古来からの風習があるように、新しい年への思いを書いて表すのは、とても有意義なこと。そこで「言霊を筆や墨で表現する」アーティストであり、書道家の武田双雲さんに、rebornしたターニングポイントとなった経験を、一文字で表してくださいとお願いしたところ凛として力強い「志」という書が。さて、その心とは?
子どもが生まれたことも、名前を双雲に変えたことももちろん大きかったんですけど、僕にとって一番大きなターニングポイントは、会社を辞めたこと。それまでは、僕らの世代特有の「のんびり感」みたいなものがあって、ちょっとした空しさと、ちょっとした喜びが交錯している日々。どこか中途半端で、目標もできなかった自分が、ある時、会社を辞めたんですよね。いわゆる親の庇護のもとに、勢いのまま就職して、社会の中で働かせてもらっている、そうして自動的に進むはずの人生のレールから、降りたわけですよね。守ってくれるものがなくなって初めて、自分が今まで守られてたんだ、ということに気付き、路頭に迷うわけですよ。
取材当日は、双雲さんの門下生による「第4回ふたばの森書道展」初日。門下生の方と気軽に話しながら会場を案内してくださいました。それにしても、みなさんの書の、のびやかで力強いこと! こどもたちの作品は特に圧巻。「いちばんすごいのはこども」と双雲さん。
そんな中で、出てきたのが“志”なんです。混沌とはしていたし、そんな壮大なところまで発展してないまでも、その種みたいなものが、まずは生まれて。初めて未来に種を撒いた、という感じだったんです。その設定は自由だから、どうせ志を描くなら、目標というよりは、でっかいものをやろうと。すると「人類」という言葉が浮かんできたんです。もともと、宇宙工学や生命力の本を読むことが好きではあって、講演でも僕が話すのは、かなり物理的なこと(笑)。重力と紙の摩擦と自分の筋肉、そのクロスポイントをどう表現していこうかとか。ただ、宇宙と自分の行動は結びつかなかったので、人類を動かそうと思って。時代的にこれだけ発達した今にとって「人類」っていうのはリアルな言葉表現ですよね。それからは、どうやって人類をよりよい方向に持っていくかが志になったんです。僕が人類にどうやったらいい影響を与えられるかっていうことを置いた瞬間から自分が変わった。全部の細胞が入れ替わったような感じがしたんです。志を持つっていうのはそのぐらい大きなことなんだと思います。僕は、志のすごさを知ったから。
それからは毎日毎日、身近な嫁姑問題、介護問題からニート問題、そんな人類のあり方まで語って、“書”を書いて発表してきました。今の活動は計算したわけではないけれど、やっとスタート地点に立ったかなっていうところ。少しずつ、人類に対しての意味とリアルを感じています。最初の頃は周りの人に「何言ってるの?」って言われたけれど、言い続けたし、志は誰が何と言おうと絶対に揺るがないものだし。志を持って、いろいろな人に伝えて、その気持ちを共有していく。共鳴した人と一緒に分かり合っていくことで大きなパワーになるから。それは新しいものを発見するというよりも、もともとみんなが持ってる扉を開いていくというか。「元気」って、人々の“元(もと)”に“気づく”って書きますよね。その元気スイッチを押すだけだから。その手段として書は、僕にとって神様から与えられた、ドラゴンクエストで言う伝説の剣みたいなもの。これで僕も頑張って戦いたいと思っています。
写真左・上中央・上右/書道展をあとにして訪れた双雲さんのアトリエ。いろいろな場所に双雲さんの書が。「志」の文字も、ここで書いていただきました。書道教室もここで開かれているそうですが、現在は定員いっぱいだそう。
左・下中央・下右/双雲さんが使われている道具の一部。双雲さんが硯で墨を磨り始めたとたん、アトリエを墨の香りが漂い、一瞬にして凛とした空気に変化。背筋がぴんと伸びるような、気持ちのよい緊張感が生まれました。

武田双雲 (たけだ・そううん)
昭和50年熊本市生まれ。3歳から母である書家:武田双葉(そうよう)に書を叩き込まれる。東京理科大学理工学部卒。2001年1月NTTより独立。現在は湘南を基盤に創作活動を続ける。著書に「たのしか」(ダイヤモンド社)など。またNHK大河ドラマ「天地人」、愛・地球博パビリオン「題字揮毫」、映画「北の零年」、朝日新聞連載「縁」「家族」など数多のメディアの題字を手がける。