
いつもスーパーで目にしている甘く、色とりどりのフルーツ。
実がなるまでのプロセスを知ることで、何かが変わるなら。

「まじりけないものってこんな味がするんだ」。
旅の道中、駅の売店で買った果汁100%のブルーベリージュースを車内でひと口飲み、ぽそっとつぶやく東野翠れんさん。窓からは、あふれる光と流れる緑がハレーションを起こし、フワフワのどかな気配を漂わせている。
向かっているのは、長野県の浅間山麓、標高900mの山の斜面にある、りんごとブルーベリーの農園「松井農園」。ここで今日は、りんごを育てる作業のひとつ、花摘みを体験する。
「グリーン・ツーリズム」という言葉が、さかんに巷をにぎわせている。休日をレジャーやリゾート施設で過ごすのではなく、農山村に行き、自然や土地に根ざした産業、文化にふれあうことで、地方の魅力や大切さに気付いてもらおうというものだ。

今回も、りんご狩りはよく聞くけれど、育てるプロセスから体験できると聞いて、興味をそそられた。ただ、なぜりんごの花を摘むの?そんなことさえ、何も分からぬまま。
「ひとつの木にたくさん実がなる中で、このままだと栄養が分散して、みんな小さなりんごになるので、花を1/20位に整理するんです。そうすることで、お
いしく大きなりんごができるわけです」と教えてくれたのは「松井農園」の松井哲男さん。「真ん中の花だけ残して、周りを摘むようにします。頭をちょっとひ
ねってあげると、わりと簡単にできますよ」松井さんの指導のもと、翠れんさんは少しためらいながら、花の根本をきゅっとひねる。「あっりんごの匂いがす
る」といいながら、摘んだ花は、そっとポケットに。

しばらく夢中で花摘みに没頭する翠れんさん。表情もいきいきしてくる。「分かってくると楽しくなりますね。残す花を見極 めなきゃいけないと思うと、面白くなっちゃって」。ただこれがひと山ぶん、二千本近くもある木をすべて手作業で行うとなると、相当の重労働だということ は、たやすく想像がつく。「木の養分が花に吸われちゃうので、早く摘んであげたほうが木もラクになって、来年もよく育ってくれるんです」という松井さん、 私たちの相手をする間も手は休めず、花をみるみる摘んでは、容赦なく地面に落とす。
ぽつぽつと咲く白い花は本当にきれいで、つい残しておきたいという気になるけれど、農家の人達にとって花摘みは、おいしいりんごを育てるため、また生きる ために必要な作業なのだということ。「これから、りんごがお店で並んでいるのを見ると、この花や、出来あがるまでの過程を想像しちゃいそうです」。
収穫は8月下旬くらいから。こんどはきっと、花を摘んだ木のりんごを摘みに。


「松井農園」では、りんごの花摘み体験やりんご狩り(300円〜)ができるだけでなく、コスモス狩りや釣り堀、釣った魚をそのまま焼いて食べられるバーベキュー場まで!
老若男女、半日いても飽きないようなくふうが凝らされている。
長野県小諸市松井甲4385
tel0120-27-0881
http://www.matsui-farm.co.jp/
東野翠れん (ひがしの・すいれん)
1983年生まれ。写真家。高校在学時から数多くのアーティストのポートレイトを撮影。作品集に『ルミエール』(扶桑社刊)、『風花空心』(共著/湯川潮音/リトルモア刊)など。モデルとしても雑誌、TVCFで活躍。